らかされたように云うではないか、さア、何とか返答してくれ」
「あたしは、何も文句を云わずに、看病がして貰いたいの。いやな顔をされたり、うるさがられたりして看病されたって、ちっとも有難いと思わないわ」
「しかし、看病と云うのは、本来うるさい性質のものとして出来上っているんだぜ」
「そりゃ分っているわ。そこをあたし、黙ってして貰いたいの」
「そうだ、まあ、お前の看病をするためには、一族郎党を引きつれて来ておいて、金を百万円ほど積みあげて、それから、博士を十人ほどと、看護婦を百人ほどと」
「あたしは、そんなことなんかして貰いたかないの、あたし、あなた一人にして貰いたいの」
「つまり、俺が一人で、十人の博士の真似と、百人の看護婦と、百万円の頭取の真似をしろって云うんだね」
「あたし、そんなことなんか云ってやしない。あたし、あなたにじっと傍にいて貰えば安心出来るの」
「そら見ろ、だから、少々は俺の顔が顰《ゆが》んだり、文句を云ったりする位は我慢しろ」
「あたし、死んだら、あなたを怨《うら》んで怨んで怨んで、そして死ぬの」
「それ位のことなら、平気だね」
妻は黙って了った。しかし、妻はまだ何か彼
前へ
次へ
全22ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング