いよ怪しい。」
姉は梁《はり》の端に吊《つ》り下《さが》っている梯子を昇りかけた。すると吉は跣足《はだし》のまま庭へ飛び降りて梯子を下から揺《ゆ》すぶり出した。
「恐《こわ》いよう、これ、吉ってば。」
肩を縮めている姉はちょっと黙ると、口をとがらせて唾を吐きかける真似をした。
「吉ッ!」と父親は叱った。
暫くして屋根裏の奥の方で、
「まアこんな処に仮面《めん》が作《こしら》えてあるわ。」
という姉の声がした。
吉は姉が仮面を持って降りて来るのを待ち構えていて飛びかかった。姉は吉を突《つ》き除《の》けて素早く仮面を父に渡した。父はそれを高く捧《ささ》げるようにして暫く黙って眺めていたが、
「こりゃ好く出来とるな。」
またちょっと黙って、
「うむ、こりゃ好く出来とる。」
といってから頭を左へ傾け変えた。
仮面は父親を見下して馬鹿にしたような顔でにやりと笑っていた。
その夜、納戸《なんど》で父親と母親とは寝ながら相談した。
「吉を下駄屋《げたや》にさそう。」
最初にそう父親が言い出した。母親はただ黙ってきいていた。
「道路に向いた小屋の壁をとって、そこで店を出さそう、それ
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