なたのお店がいけないんだわ。あたしは気取つたことなんかしてゐると、首の骨が痛み出すの。あたしは動かないでじつとしてると、草のやうになつて了つて風邪をひくの。」
「それや野蛮だ。」
「あたしは野蛮人が大好きよ。あの裸体姿を見てゐると、身体が風のやうに拡つて飛びたくなるの。」
「君には進化と云ふものがないからだ。もし僕が君だつたら、首を縊るより仕方がない。」
「あら、あなたには進化がないから、そんなことを仰言るんだわ。野蛮人を軽蔑するのは、文明人の欠点よ。」
「それなら君は、自分の親父と結婚するに限るのだ。」
「まア、あなたは、結婚とはどんなことだか御存知ないと見えるわね。」
「冗談はよし給へ。これでもまだ結婚だけはしたことがないんだよ。」
「ぢや、どうぞ御自由にして頂戴。あたしはそのとき、そつとあなたのお顔を見て上げるわ。そしたらあなたは、きつと野蛮人のやうなお顔をなすつて、まア結婚なんて、だいたい、こんなものさつて仰言るわ。」
「それなら僕と、結婚してみるのが一番だ。」
「まア、そんなに恐はさうなお顔で仰言らなくても、あたし、結婚なんかいたしませんわ。」
「いや、結婚すると云ふことは、
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