時間

横光利一

 私達を養っていてくれた座長が外出したまま一週間しても一向に帰って来ないので、或る日高木が座長の残していった行李を開けてみると中には何も這入っていない。さアそれからがたいへんになった。座長は私達を残して逃げていったということが皆の頭にはっきりし始めると、みなの宿賃をどうしたものか誰にも良い思案が浮んで来ない。そこで宿屋へは私が一同に代って当分まアこのまま皆の者を置かしておいてくれるよう、そのうちに為替がそれぞれ一同のものの郷里《くに》から来ることになっているからといってまた暫くそのまま落ちつくことになった。ところが為替は郷里から来たには来たが来るたびにわっと皆から歓声が上るだけで、結局来た金は来た者だけの金となってそのものがこっそりいつの間にか自分の一番好む女優と一緒に逃げのびていくだけとなって、とうとう最後に八人の男と四人の女とがとり残される始末となった。
 いつも女達が自分にばかり心を向けていると考えたがる癖のある六尺豊かな高木、賭博が三度の食事よりも好きで壺皿の中の賽《さい》の目《め》を透視する術ばかり考えている木下、仏さまと皆からいわれている青白くて温和で酒
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