を飲むと必ず障子を舐める癖のある佐佐、それから女の持物を集めたがる少し変態の八木、腕相撲や足相撲が自慢で町へ這入るといつも玉突ばかり探す松木、物を置き忘れたり落したり何んでも忘れることばかり上手な栗木、吝嗇坊《けちんぼ》な癖に借りた物を返すのが嫌いな矢島とそれに私、とこう八人の男と波子、品子、菊江、雪子の女四人のこの総勢十二人の取り残されたものたちには、いつまで待っても為替が来ないというより、そのものらは初めからどこからも金の来るあてがないのでただ為替の来そうなものの金を目あてに残っていたものばかりなんだから、来ない方が道理なので、そこで宿屋の方でももう後はいくら待っても危いと睨んだらしく、それからは残った十二人の者をうのめたかのめで看視し始めた。一方私達はそれぞれもうそうなれば誰かに金が来るよりもいっそのこともう来ない方が良いほどで、来れば必ずそのものだけがこっそりと逃げるに決っているのだから、後に残れば残ったものほど皆の不義理をそれだけ一身に背負っていかねばならぬので、お互に暫くすると今度は誰が逃げ出すだろうかとひそかに看視し合っているほどまでになって来た。しかし、そんな看視をし合
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