れる。足がふらりふらりと中風のように泳ぎ出す。すると舌を噛んだり頭を前の傘持ちにぶっつけたりし続ける。後ろで女が九十近くまで数えて来る頃にはもう病人をそのままそこへどたりと抛り落したくなって来て、それを感づかせてはまた泣かれるからじっと我慢をしているものの、終いには眼がひき吊ってしまって開けるとぱっちり音がしそうなほどになる。そうして漸く次のものに変って貰ったとしても一人一丁で八丁目毎にまた廻って来るのだから、休む間が知れているのだ。お負けに空腹は時間がたてばたつほど増して来て、それに従って背中の上の病人はそれだけ重くなっていくのだからやりきれたものではない。すると、病人は真中に皆に挟まれていくのはいやだから真先にやってくれと無理をいい出した。それでは負われているものは捨てていかれる心配がなくなるから気楽にはなるであろうが、反対に背負っていくものは絶えず後から圧迫されて疲れることが甚だしいのだ。私は皆のものも私が病人を連れ出して来たばっかりにこんなに苦しまされたのだと思うと、もう皆がどうする事も出来なくなってへたばりそうになったら私は病人を海の中へ抛り込むか病人と二人でそのままそこへ残
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