のだと分ると、一同もぼんやりとしてしまってこれには困ったという風に雨の中で溜息をつき出した。そこで私は男には分らぬそんな女の症状のことは女達に任かせようというと、それでは今直ぐに乾いた布が何より入用だというので仕方がないから白い襦袢を脱いで渡してまた進んだ。病人は気の毒がって次ぎに背負い変った松木の背中の上で自分をもうここへ捨てておいていってくれとしきりに泣いていう。そんなに泣いてはやかましいからもう捨てていってしまうぞと松木が嚇かすと、一層激しくわッと泣くばかりである。しかし、そんなことよりも何より追手のことをあまり考えなくなると今度は一団に空腹がやって来た。一人が明日になって町へ着いたらだい一番にかつれつを食べるんだというと、一人は鮨を食べるという。いや鮨よりも鰻が良いという者があるかと思うと牛肉が食べたいというものがある。すると、それからそれへと他人のいうことなんか訊かずに何が美味かったとかどこで何を食べたとか食べ物の話ばかりが盛んになって、ますますがつがつした動物のようになっていった。

 ところが私もこの空腹にだけは皆と同様困り果てて道傍の畑からでも食物を探そうとしたのである
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