《へそ》が大きいやろ。あんまり大き過ぎるので擦《す》れて血が出やへんかしら思うて、心配してるのやが、どうもなかったか?」
「そうか、そんなに大きいのか。」
彼は足を洗いながらある女流作家の書いた、『ほぞのお』という作の中で、嬰児《えいじ》の臍から血が出て死んでゆく所のあったのを想い出すとまた不安になって来た。
「そんなことで死んだ子ってありますか?」
「あるともな。」
「死にゃせぬかなア。」
母は黙っていた。
「どうしたら癒《なお》るんだろう、お母さん知りませんか。」
「私《うち》おりかに二銭丸《にせんだま》を綿で包んで臍の上へ載せて置けっていうといたんやが、まだしてたやろな?」
「ちっとも見ない。」
「そおか。う――んと気張ると、お前の胃みたいにごぼごぼお臍が鳴るのや。お前胃はもうちょっと良うなったかいな?」
彼は足を洗ってしまったのに、まだ上《あが》り框《かまち》に腰を下したまま盥の水を眺めていた。暫《しばら》くして、
「死にゃせぬかしら。」とまたいった。
「どうや知らぬわさ。お前髪をシュウッととき付けたらええのに、痩《や》せて見えて。」
母はちょっと眉
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