かな顔をして縁側《えんがわ》から上って来た。
「何時の汽車、二時?」
「こ奴俺に似とるね。似てないかね。」
おりかは娘を見下《みおろ》すと、黙って少し赧《あか》い顔をして肩から襷《たすき》をはずした。
「ね、似とるよ、何っていう名だね?」
「ゆきっていうの。」
「ゆき?」
「幸村《ゆきむら》の幸《ゆき》っていう字。」
「さいわいか?」
「そやそや。」
「あんな字か、俺ちゃんと考えといてやったんだがな。辞引《じびき》ひっぱったのやろ?」
「漢和何とかいうの引いたの。末っちゃんに考えてもらえって私《うち》いうたのやけど、義兄《にい》さんったらきかはらへんのや。いややなアそんな名?」
「こりゃ可愛《かわい》い子だ。俺に似るとやっぱり美人だな。」
「そうかしら、お風呂で芸者はんらがな、こんな可愛らし子どうして出来るのやろいうて取り合いしやはるのえ。」
「いい子だよ。苦労するぜ姉さんは。」
末雄は姉を見て笑うと、急に自分のませ[#「ませ」に傍点]た態度が不快になった。彼は立って井戸傍《いどばた》へ足を洗いに行った。それから疲れていたので姪の傍にくっついて寝たが、姉が
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