花園の思想
横光利一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)梯子《はしご》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)夜|更《ふ》けて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)かもじ[#「かもじ」に傍点]
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       一

 丘の先端の花の中で、透明な日光室が輝いていた。バルコオンの梯子《はしご》は白い脊骨のように突き出ていた。彼は海から登る坂道を肺療院の方へ帰って来た。彼はこうして時々妻の傍《そば》から離れると外を歩き、また、妻の顔を新しく見に帰った。見る度《たび》に妻の顔は、明確なテンポをとって段階を描きながら、克明に死線の方へ近寄っていた。――山上の煉瓦《れんが》の中から、不意に一群の看護婦たちが崩《くず》れ出《だ》した。
「さようなら。」
「さようなら。」
「さようなら。」
 退院者の後を追って、彼女たちは陽《ひ》に輝いた坂道を白いマントのように馳《か》けて来た。彼女たちは薔薇《ばら》の花壇の中を旋回すると、門の広場で一輪の花のような輪を造った。
「さようなら。」
「さようなら。」
「さようなら。」
 芝生の上
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