はな、鶏を食べていやはるのや。」と子は母を見上げていった。
「そんな事をいうものやない。」と母はいった。隣家の裏庭の重い障子《しょうじ》の開く音がすると、縁側の処《ところ》へ近所の兼助《かねすけ》という男が赤い顔をして立っていた。
「お里《さと》さん、御馳走《ごっそ》だすぜ、さアお出《い》でやす。」そう男がいって子供を抱く時のように両手を出して一度振るとひょろひょろとした。
母は微笑《わら》って「え、大きに。」といった。
「さア、早ようやなけりゃ駄目《いけ》まへんぜ。」
「この子がいますで後ほどまたおよばれしますわ。」と母はいった。
「何アに、米《よね》さんは一人寝せときゃええさ、なア米さん、独人《ひと》り寝てるわのう。」と男は顔を少し突き出した。
子は男から顔をそむけて黙って母の顔を見上げた。
「お前ひとり寝てる?」と母は訊《き》いた。
子は顔を横に振った。
「あんなにいうておくれはるのやで、お前ひとり寝てな、え、直《じ》きにお母さんが帰って来るで。」
「好《え》えさ好えさ、赤子《あかご》じゃあるまいし。」そういうと男は「どっこいしょ。」と背後へ反《そ》り返《か
前へ
次へ
全18ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング