。」
といってまた眼を閉じた。母は黙っていた。その中《うち》に彼女の眼が潤《うる》んで来た。
「ランプはもう要《い》りませんか。」
と先生がいった。母はやはり黙って少し前へ身体を動かした。
先生も黙って下へ降りて行った。室《へや》の中が暗くなると、母は子を一層強くだいた。そして長らくして、
「虫が報《し》らせたのやわ。」
と小さい声で呟《つぶや》いた。子はもういびきを立てていた。
底本:岩波文庫「日輪 春は馬車に乗って 他八篇」岩波書店
1981(昭和56)年8月17日第1刷
1997(平成9)年5月15日第23刷
入力:大野晋
校正:田尻幹二
1999年7月9日公開
青空文庫作成ファイル:
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