ナポレオンと田虫
横光利一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)虹《にじ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)古今|未曾有《みぞう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)瑪瑙[#底本は「瑙」を「瑠」と誤植]
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        一

 ナポレオン・ボナパルトの腹は、チュイレリーの観台の上で、折からの虹《にじ》と対戦するかのように張り合っていた。その剛壮な腹の頂点では、コルシカ産の瑪瑙[#底本は「瑙」を「瑠」と誤植]《めのう》の釦《ボタン》が巴里《パリー》の半景を歪《ゆが》ませながら、幽《かす》かに妃《きさき》の指紋のために曇っていた。
 ネー将軍はナポレオンの背後から、ルクサンブールの空にその先端を消している虹の足を眺《なが》めていた。すると、ナポレオンは不意にネーの肩に手をかけた。
「お前はヨーロッパを征服する奴は何者だと思う」
「それは陛下が一番よく御存知でございましょう」
「いや、余よりもよく知っている奴がいそうに思う」
「何者でございます」
 ナポレオンは答の代りに、いきなりネーのバンドの留金
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