に責任がないと云ふことを知つてゐるだらうね。」
「はい、それはよく存じてをります。」
「三日の夜の轢死人は泥酔してゐたと云ふが事実であらうな。」
「はい。」
「ではそのときの様子を成る可く精細に話してみよ。嘘を云つてはならぬぞ。」
「はい、さうでございますね。あのう十二時二十分の貨物列車の下つて来るまでには少々間がありましたので、それで、私は夕暮に植ゑた孟宗竹を見に行つたのです。」
「ああ一寸待て、独り暮しになつてからどれほどになるな。」
「四年になります。」
「四年か、ふむ、植木は好きかな。」
「はい、いたつて好きでございます。」
「よしよし、それからどうした。」
「それから何かしたいと思ひましたが、することがなかつたので鎖を曳いて了ひました。そこへ泥酔人《よひどれ》が坂を下つて来て通せと云ふのです。」
「そのとき貨物の音はしてゐたのか。」
「はい、もうしてをりました。」
「通してやればよかつたではないか。」
「はい、私はいつも一度鎖を引けば通る程の時間がございましても通さないことにしてをります。そのときも矢張り通しませんでした。するとあの男は、それぢや俺が通つてやると云つて私の引つ
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