手な指物師の拵へた道具のやうに、しつくりと為口《しくち》が合つて、それがお前さんの生活に纏まつてゐるのだ。併しこんなに為合《しあは》せな要約が旨く出合つてゐるといふ以上はもうそろ/\均衡が破れさうになつてゐはしないか。図《はか》らず口から滑り出た一言、ちよいとした、間違つた挙動なぞのやうな、刹那の不用意から生ずる一瑣事が、この不思議に纏まつてゐる総てを打ち崩してしまひはすまいか。お前さんはそこに気が付いて、用心してゐなくてはならないのであつた。
クサンチス姉えさん。お前さんは場知《ばしら》ずで、気の利かない事をしたのでせうか。決してさうではありません。お前さんはエゲエの社《やしろ》でお祭りのある時に、踊を踊つてゐて、段々年頃になつた、小さな希臘《グレシア》生れの踊子に過ぎないのだが、自分の出合つた、新しい境遇に処するには、どうすれば好いかといふ事丈は、苦もなく悟つてゐた。昔風の、貴族的な交際に必要な、巧者な優しみも出来た。ロマンチツクの感情の劇《はげ》しい嵐に、戦慄しながら、身を委ねる事も出来た。あらゆる恋の役々を、お前さんは巧者に勤めた。
そんなら何が悪かつたのだらう。本当の事を
前へ
次へ
全25ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
サマン アルベール の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング