の石鹸ナ、あれは一グロス二両と四貫だ。あの品が躰裁が妙《おつ》に出来てるんで素人《しろうと》が惚込んで三ダースや四_ースは直ぐ売れる。それから歯磨ナ、あれは子[#「子」は「ネ」の代わりに使われ、小文字になつている]コ[#「子コ」に傍点]になつてる歯磨を升《ます》で買つて来て竜脳《りゆうなう》を些《ちつ》とばかり交ぜて箱詰にして一と晩置くとプン[#「プン」に傍点]と好い香がする、そいつをオンタケ散とか豚印とか好い加減な名を付けた袋へ入れて一と袋一銭五厘に売るんだ。奈何だい、商人の楽屋は驚いたもんだらう。尤も僕の商売は夏向で冬は閑な方だが、こゝ君達に一つ秘策を授けやうかナ。懸賞小説を書いたり政治家の尻馬に乗るより余程《よつぽど》気楽に儲けることが出来る。斯ういふ商売だ。牛込や神田には向かんが本所、下谷、小石川の場末、千住《せんじゆ》、板橋|辺《あたり》で滅法売れる、胼《ひゞ》あかぎれ霜傷《しもやけ》の妙薬鶴の脂、膃肭臍《おつとせい》の脂、此奴《こいつ》が馬鹿に儲かるんだ。なアに鶴や膃肭臍が滅多に取れるものか。豚の脂や仙台|鮪《まぐら》の脂肪肉《あぶらみ》で好いのだ。脂でさへあれば胼あかぎれ
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