え、初めは資本《もとで》が無いから河渫ひの人足に傭はれた事もある。点灯会社に住込んで脚達《きやたつ》を担《かつい》で飛んだ事もある、一杯五厘のアイスクリームを売つた事もある。西瓜の切売をした事もある、とゞの結局《つまり》が縁日商人となつて九星《きうせい》独《ひとり》判断《はんだん》、英語独稽古から初めて此頃では瞞着《まやかし》の化粧品と小間物を売つてマゴ/\[#「マゴ/\」に傍点]しておるが君、金を儲けるのは商人だよ。殊に縁日商人位|泡沫《あぶく》銭の儲かる者は無い。僅か二両か三両の資本《もと》で十両位浮く事がある。尤も雨降のアブレ[#「アブレ」に傍点]もある。品物のロウズ[#「ロウズ」に傍点]も出るから儲かるほどに金は残らんが子[#「子」は「ネ」の代わりに使われ、小文字になつている]、なにしろ独立の商人でお客様の外は頭を下げずに太平楽を云つて、定《きま》つた給金と違つて不意の所得《まうけ》の入る処が面白い。君だから内幕を話すが二銭に三箇《みつゝ》の石鹸《シヤボン》ナ。あれは一百《いつそく》一貫の品だ。一と晩に一百売ると五貫余儲かる、夏向になると二百や三百は瞬く間に売れる。一番高い六銭
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