る顔が大欠伸をした。
「両君、相変らず詰らない喧嘩をしますナ……」
と伸《のび》をした手で腕を撫《さず》りながら、「銭が儲かるの儲からんのと政治家や文学者を気取る先生方が俗な事を仰《おつ》しやる。銭が儲けたいなら僕の所為《まね》をし給へ。君達は理窟を云ふが失敬ながら猶だ社会を知つておらんやうだ。先ア僕の説を聞給へ。斯う見えて僕は故郷《くに》に在《ゐ》た時分は秀才と云はれて度々新聞雑誌に投書をして褒美を貰つた事もある。四五年前の雑誌を見給へ、駿州|有渡郡《うどごほり》田子の浦|在《ざい》駿河不二郎の名がチヨク/\[#「チヨク/\」に傍点]見えるよ。それだから故郷を出る時は矢張《やつぱり》人並に学若し成らずんば死すとも帰らずと力んだが、さア東京へ来て見ると迚《とて》も満足な学費が無くては碌な学問は出来ない。新聞や牛乳の配達をして相間《あひま》に勉強しやうてのは、(亀井君は現にやつておるが子[#「子」は「ネ」の代わりに使われ、小文字になつている])、実は中々忙がしくて、片手間の勉強で成効しやうてのは百年黄河の澄むを待《まつ》やうなもんだ。所で僕は発身《ほつしん》して商人《あきんど》と宗旨を換
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