には確に効く。此奴を一貝《ひとかひ》一銭に売るんだが二貫か三貫か資本《もと》で一晩二両三両の商売《あきなひ》になる。詐偽も糞もあるもんか。商人は儲けさへすりやア些と位人に迷惑を掛けても関《かま》はんのだ。今の大頭株《あほあたまかぶ》を見給へ、紳商面をして澄ましてやがるが、成立《なりたち》は悉皆《みんな》僕等と仝じ事だ。今でも猶だ其根性が失せないから大きな詐偽や賭博《ばくち》の欺瞞《いかさま》をやつて実業家だと仰しやいますヮ……」と滔々《たう/\》と縁日の口上口調で饒舌《しやべ》り立てる大気焔に政治家君も文学者君も呆気《あつけ》に取られて眼ばかりパチクリ[#「パチクリ」に傍点]させてゐた。処へ案内もなく障子をガラリ[#「ガラリ」に傍点]と開けて、方面《はうめん》無髯《むぜん》の毬栗《いがぐり》頭がぬうッ[#「ぬうッ」に傍点]と顔を出した。
「やア、片岡、奈何《どち》じやい?」と政治家は第一に口を切つた。
「ふゥむ、」と得意らしく小鼻を揺《うご》めかしながら毬栗頭は褪《は》げチヨロケ[#「チヨロケ」に傍点]た黒木綿の紋付羽織をリウ[#「リウ」に傍点]としごいて無図《むづ》と座つた。
「首尾
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