ぬヮ。」
「僕は豪遊なんぞしたくない。斯《か》うして新聞配達をしながら傍《かたは》ら文学を研究してゐるが、志す所は一生に一度不朽の大作を残したいのだ。飯喰《めしくひ》の種《たね》は新聞配達でも人力車夫でも立ちん坊でも何でも厭はないのだ。」
「吝《けち》な野郎ぢやナ。一生に一度の大作を残して書籍館《しよじやくゝわん》に御厄介を掛けて奈何する気ぢや。五体満足な男一匹が女や腰抜の所為《まね》をして筆屋の御奉公をして腐れ死をして了つては国家に対する義務が済むまい。なッ亀井。俺の忠告に従つて文学三昧も好い加減に止めにして政治運動をやつて見い。奈何ぢや、牛飼君の許《とこ》から大に我々有為の青年の士を養うと云ふて遣《よこ》したが、汝、行つて見る気は無いか。牛飼君は士を待《たい》するの道を知りおる。殊に今度の次の内閣には国務大臣にならるゝ筈ぢやから牛飼君の客《かく》となるは将に大いに驥足《きそく》を伸ぶべき道ぢや。」
「僕は政治家は嫌ひぢや。」
「なにッ、政治家は嫌ひぢや、」と呆れたやうに眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85、46−10]《みは》つて、「汝は能く/\な腰抜けぢやナ。天下の権を握
前へ 次へ
全12ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
内田 魯庵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング