凡《へぼ》小説を捻くる間《ひま》に少《ちつ》と政治運動をやつて見い。」
「はッはッ、僕は大に君と説が異《ちが》う。君は小説を能《よ》く知らんから一と口に戯作と言消して了うが、小説は科学と共に併行して人生の運命を……」
「措《お》いて呉れ、措いて呉れ、小説の講釈は聞飽きた、」と肱枕の書生は大|欠伸《あくび》をしつゝ上目《うはめ》で眤《じつ》と瞻《みつ》めつ、「第一、汝、美が如何《どう》ぢやの人生が如何ぢやのと堕落坊主の説教染みた事を言ひくさるが一向|銭《ぜに》にならんぢやないか?」
「今度は当選る、」と懸賞小説家は得意な微笑を口辺《くちもと》に湛へつ断乎たる語気で、「三月《みつき》以来《このかた》思想を錬上げたのだから確に当選る。之が当選らぬといふ理由は無い……」
「汝は自慢ばかりしおるが一度も当選つた事は無いぞ。併し当選つた処で奈何する、一年に二度や三度、十円や十五円の懸賞小説が取れたッて飯は食へんぞ。」
「勿論僕は筆で飯を喰ふ考は無い。」
「筆で飯を喰ふ考は無い? ふゥむ、夫《それ》ぢやア汝は一生涯新聞配達をする気か。跣足《はだし》で号外を飛んで売つた処で一夜の豪遊の足《たし》になら
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