年配から云つて留学を志ざしさうに判断するは先づ当らずと雖ども遠からずと考へたんだらう。処で私は其頃欧羅巴では無いが或る外国へ渡航する計画が有つて、誰にも云はぬが内々準備してゐた最中なので、鳥渡言ひ当てられたやうな気がした。
 残花は一番アトだつた。一番余計口を利いて相者と頻りに問答した。クリスチヤンであり、ミスチツクが好きで、心霊無限力を信じ、此の人相実験の発頭人であり案内者であるくせに残花は『お前達には騙されないぞ』といふやうな顔を粧ふて較やもすれば馬鹿にするやうな口気があつた。坪内君は例の通り恭謹で、相者の一語々々に感服したやうに首肯いて見せた。私は三人の中の弱輩だから控へ目に謹んでゐた。残花は東道の主人として多少座を取持つツモリもあつたらうが、一人で饒舌して相者を呑んで掛つておヒヤラかす気味があつた。其態度が癪に触つたのだらう。残花が相者の下した或る判断を冷かすやうに薄笑ひながら否定して掛ると、相者は忽ち威丈高に大喝して曰く、『それが証拠にはアナタの□□にホクロがある!』
 さすがの残花もアツと絶句してタヂ/\となつた。『そいつは気が付きませんナ。』とシドロモドロで、『帰つたら能
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