たら学校の先生といふやうな御身分だ。』と見事に図星を当てた。尤も残花と私とは和服の着流しであつたが、坪内君だけは洋服で、一見先生らしかつた。相者は更に一歩を進めて『アナタの前額には(何とかいふ相学のテクニツクを使用して)といふ不幸の相が現はれてをる。アナタの目上、例へばお兄いさんとか伯父さんとかいふ方の御不幸が此頃有りましたらう。』と云つた。坪内君は如何にも的中したといふやうに首肯いてゐた。(続いて二三の問答があつたが今は全く忘れて了つた。唯之だけを覚えてる。)
私は三人の中の一番弱輩で、カスリの羽織なんぞを着てゐたからマダ学生と思つたのであらう。『アナタは哲学を勉強してゐなさるナ。』と言葉もやゝゾンザイだつた。前に話した易者も私を哲学者志望だと云つたが、復た今度も哲学書生だ。私の顔は哲学臭いと見える。『アナタは立派に哲学者となれる、勉強なさい。』と復た同じやうな訓誡を受けた。尤も今度は怠けるとイケマセンゾといふやうな月並な説諭は云はれないで、『アナタは今働いてる、ドコかへ旅行する相がある。本年は必ず洋行出来る、』と自分が留学生の辞令を呉れさうな口吻だつた。マダ勤学中の学生と見立てゝ
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