い横の格子戸を排けて、残花が数寄屋橋教会の誰それからの紹介で上つたといふと直ぐ慇懃に二階に通された。
主人は板木師の親方であるが、観相家だけあつて職人らしくない沈着きがあり、眼が据つて鋭くギラ/\してゐた。アトにも先きにも相を見て貰つたのは前後に一回ぎりだから、ヨソの人相見はドウいふ風に見るか知らないが、此の剞※[#「厥+りっとう」、第4水準2−3−30]堂先生は天眼鏡を片手に顔を押しつけぬばかりに眼を近寄せて鋭どい眼を光らしてヒタと看入つた。丸で骨董屋が石か玉のニユウを捜し出さうとする塩梅式だ。眼蓋の裏を返して見たり、鼻の孔を仰向かして見たり、口を開かして覗いたり、耳朶の裏表を検めたり、眉や髯の中から生え際まで撫でて見たり、医者の診察の二三層倍も入念に三人を代る/\に見てから徐ろに天眼鏡を下に置いた。
三人は名刺を出さないから無論誰だか解らなかった。が、残花がクリスチヤンであるのは紹介者が数寄屋橋教会の会員だから直ぐ判断が附かうし、其の同伴者であるから我我両人も読者階級者であるのは亦容易に推測されやう。相者は先づ坪内君に向つて、『アナタは万人に仰がれ慕はれる貴相がある、職業で云つ
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