。無論日本の分類書目的の普通目録であるが、恁ういう交通の少ない国の書目は最も普通のものでも猶お珍奇とするに足る。
 其他各国大学又は図書館協会或は学会等、及びクワーリッチ、ヒールセマン等英仏独蘭の稀覯書肆から出版した各種の稀覯書目録[#以下の括弧内割注](欧羅巴の稀覯書肆の特別刊行の書目は細密なる分類を施こし且往々解題を加え或はファクシミルを挿入する故書史学者の参考として最も珍重すべきものである。)が数百種あった。凡そ是等の特種書目は三百部乃至五百部を限るゆえ再び之を獲る事は決して出来ないのだ。
 無論、是等の書目の多くは日々の営業上必要なものでなく、大抵高閣に束ねて滅多に参考する事は無いが、外国書籍の知識を得る為めには絶好の資料であった。我々が外国古文学又は特殊の書籍又は稀覯書等に就て知らんとするに方って普通の目録や書籍歴史では決して得られない知識を探り得られる是等の含蓄多き貴重なる書目の滅亡は真に悲むべきであった。
 Kと一緒に暫らく灰燼の中を左視右顧しつゝ悵然《ちょうぜん》として焼跡を去りかねていた。
 四壁の書架は尽く焼燼して一片紙の残るものだに無かった。日本の思想界を賑わした
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