ックやウォッヘの切抜で下らぬものばかりである。こんなものさえ大切にスクラップ・ブックへ貼付けて珍重する日本では、残念ながら猶だ/\当分の中は外国書籍のお庇を蒙らねばならない。此種の美術書の焼失は金銭の問題では無い。金子《かね》さえ出したら絶対に買えないものは無いだろうが、一冊でも多く外国書籍を普及したい日本では、縦令再び同じものを得られるとしても、焼けたものは矢張日本の文化の損失である。
 と心窃に感慨しつゝ、是等の大美術書を下駄で踏むのがアテナの神に対して済まないような気持がしながら左見右見《とみこうみ》としていると、丸善第一のビブリオグラアーたるKが焼灰で真黒になった草履穿きで煙の中を※[#「※」は「ぎょうにんべん+尚」、第3水準1−84−33、158−5]※[#「※」は「ぎょうにんべん+羊」、第3水準1−84−32、158−5]いつゝ、焼けた材木や煉瓦をステッキで堀[#ママ]返しては失われた稀覯書の行衛を尋ねていた。
『ドウダネ、堀[#ママ]出し物でもあるかネ?』
『何にもありません。悉皆焼けて了いました、』とKは力の抜けた声をして嘆息を吐いた。
『シーボルトは?』
『焼けて了い
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