まは》す、皆之《みなこ》れこ※[#二の字点、1−2−22]の呼吸《こきふ》を呑込《のみこ》んでの上《うへ》の咄《はなし》なり。流石《さすが》に明治《めいぢ》の御《おん》作者《さくしや》様方《さまがた》は通《つう》の通《つう》だけありて俗物《ぞくぶつ》済度《さいど》を早《はや》くも無二《むに》の本願《ほんぐわん》となし俗物《ぞくぶつ》の調子《てうし》を合点《がてん》して能《よ》く幇間《たいこ》を叩《たゝ》きてお髯《ひげ》の塵《ちり》を払《はら》ふの工風《くふう》を大悟《たいご》し、向《むか》ふ三軒《さんげん》両隣《りやうどな》りのお蝶《てふ》丹次郎《たんじらう》お染《そめ》久松《ひさまつ》よりやけ[#「やけ」に傍点]にひねつた「ダンス」の Miss《ミツス》 B.《ビー》 A.《エー》 Bae.《べー》 [#「Miss B. A. Bae.」は斜体字]瓦斯《ぐわす》糸織《いとおり》に綺羅《きら》を張《は》る印刷局《いんさつきよく》の貴婦人《レデイ》に到るまで随喜《ずゐき》渇仰《かつがう》せしむる手際《てぎは》開闢以来《かいびやくいらい》の大出来《おほでき》なり。聞《き》けば聖書《バイブル》を糧《かて》にする道徳家《だうとくか》が二十五銭の指環《ゆびわ》を奮発《ふんぱつ》しての「ヱンゲージメント」、綾羅《りようら》錦繍《きんしゆう》の姫様《ひいさま》が玄関番《げんくわんばん》の筆助君《ふですけくん》にやいの[#「やいの」に傍点]/\を極《き》め込《こ》んだ果《はて》の「ヱロープメント」、皆之《みなこ》れ小説《せうせつ》の功徳《くどく》なりといふ。よしや一|斗《と》の「モルヒ子」に死《し》なぬ例《ためし》ありとも月夜《つきよ》に釜《かま》を抜《ぬ》かれぬ工風《くふう》を廻《めぐ》らし得《う》べしとも、当世《たうせい》小説《せうせつ》の功徳《くどく》を授《さづ》かり少《すこ》しも其|利益《りやく》を蒙《かうむ》らぬ事|曾《かつ》て有《あ》るべしや。
冒険譚《ばうけんだん》の行《おこな》はれし十八|世紀《せいき》には航海《かうかい》の好奇心《かうきしん》を焔《もや》し、京伝《きやうでん》の洒落本《しやれぼん》流行《りうかう》せし時《とき》は勘当帳《かんだうちやう》の紙数《しすう》増加《ぞうか》せしとかや。抑も辻行灯《つじあんどう》廃《すた》れて電気灯《でんきとう》の光明《くわ
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