る事|頗《すこぶ》る甚《はなは》だしけれど、人気《じんき》の前《まへ》に枉屈《わうくつ》して其|奴隷《どれい》となるは少《すこ》しも珍《めづ》らしからず。大入《おほいり》だ評判《ひやうばん》だ四|版《はん》だ五|版《ばん》だ傑作《けつさく》ぢや大作《たいさく》ぢや豊年《ほうねん》ぢや万作《まんさく》ぢやと口上《こうじやう》に咽喉《のど》を枯《か》らし木戸銭《きどせん》を半減《はんまけ》にして見《み》せる縁日《えんにち》の見世物《みせもの》同様《どうやう》、薩摩《さつま》蝋※[#「虫+燭のつくり」、第4水準2−87−92]《らふそく》てら/\と光《ひか》る色摺《いろずり》表紙《べうし》に誤魔化《ごまくわ》して手拭紙《てふきがみ》にもならぬ厄介者《やくかいもの》を売附《うりつ》けるが斯道《しだう》の極意《ごくい》、当世《たうせい》文学者《ぶんがくしや》の心意気《こゝろいき》ぞかし。さりながら人気《じんき》の奴隷《どれい》となるも畢竟《ひつきやう》は俗物《ぞくぶつ》済度《さいど》といふ殊勝《しゆしよう》らしき奥《おく》の手《て》があれば強《あなが》ち無用《むよう》と呼《よ》ばゝるにあらず、却《かへつ》て之《こ》れ中々《なか/\》の大事《だいじ》決《けつ》して等閑《なほざり》にしがたし。俗人《ぞくじん》を教《をし》ふる功徳《くどく》の甚深《じんしん》広大《くわうだい》にしてしかも其|勢力《せいりよく》の強盛《きやうせい》宏偉《くわうゐ》なるは熊肝《くまのゐ》宝丹《はうたん》の販路《はんろ》広《ひろ》きをもて知《し》らる。洞簫《どうせう》の声《こゑ》は嚠喨《りうりやう》として蘇子《そし》の膓《はらわた》を断《ちぎ》りたれど終《つひ》にトテンチンツトンの上調子《うはでうし》仇《あだ》つぽきに如《し》かず。カント[#「カント」に傍線]の超絶《てうぜつ》哲学《てつがく》や余姚《よよう》の良知説《りやうちせつ》や大《だい》は即《すなは》ち大《だい》なりと雖《いへ》ども臍栗《へそくり》銭《ぜに》を牽摺《ひきず》り出《だ》すの術《じゆつ》は遥《はる》かに生臭《なまぐさ》坊主《ばうず》が南無《なむ》阿弥陀仏《あみだぶつ》に及《およ》ばず。されば大恩《だいおん》教主《けうしゆ》は先《ま》づ阿含《あごん》を説法《せつぱう》し志道軒《しだうけん》は隆々《りゆう/\》と木陰《ぼくいん》を揮回《ふり
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