穿《ゑぐ》りし通《つう》仕込《じこみ》の御《おん》作者《さくしや》様方《さまがた》一連《いちれん》を云ふなれば、其|職分《しよくぶん》の更《さら》に重《おも》くして且《か》つ尊《たふと》きは豈《あ》に夫《か》の扇子《せんす》で前額《ひたひ》を鍛《きた》へる野《の》幇間《だいこ》の比《ひ》ならんや。
夫《そ》れ文学者《ぶんがくしや》を目《もく》して預言者《よげんしや》なりといふは生《き》野暮《やぼ》一点張《いつてんばり》の釈義《しやくぎ》にして到底《たうてい》咄《はなし》の出来《でき》るやつにあらず。我《わ》が通《つう》仕込《じこみ》の御《おん》作者《さくしや》様方《さまがた》を尊崇《そんすう》し其|利益《りやく》のいやちこなるを欽仰《きんぎやう》し、其|職分《しよくぶん》をもて重《おも》く且《か》つ大《だい》なりとなすは能《よ》く俗物《ぞくぶつ》を教《をし》え能《よ》く俗物《ぞくぶつ》に渇仰《かつがう》せらるゝが故《ゆゑ》なり、(渠等《かれら》が通《つう》の原則《げんそく》を守《まも》りて俗物《ぞくぶつ》を斥罵《せきば》するにも関《かかは》らず。)然しながら縦令《たとひ》俗物《ぞくぶつ》に渇仰《かつがう》せらる※[#二の字点、1−2−22]といへども路傍《みちばた》の道祖神《だうろくじん》の如く渇仰《かつがう》せらる※[#二の字点、1−2−22]にあらす、又|賞《め》で喜《よろこ》ばるゝと雖《いへ》[#ルビの「いへ」は底本では「いへど」]ども親《おや》の因果《いんぐわ》が子《こ》に報《むく》ふ片輪《かたわ》娘《むすめ》の見世物《みせもの》の如く賞《め》で喜《よろこ》ばるゝの謂《いひ》にあらねば、決して/\心配《しんぱい》すべきにあらす。否《い》な、俗物《ぞくぶつ》の信心《しん/″\》は文学者《ぶんがくしや》即ち御《おん》作者《さくしや》様方《さまがた》の生命《せいめい》なれば、否《い》な、俗物《ぞくぶつ》の鑑賞《かんしやう》を辱《かたじけな》ふするは御《おん》作者《さくしや》様方《さまがた》即ち文学者《ぶんがくしや》が一期《いちご》の栄誉《えいよ》なれば、之を非難《ひなん》するは畢竟《ひつきやう》当世《たうせい》の文学《ぶんがく》を知《し》らざる者といふべし。
此故《このゆゑ》に当世《たうせい》の文学者《ぶんがくしや》は口《くち》に俗物《ぞくぶつ》を斥罵《せきば》す
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