へば、社会問題《しやくわいもんだい》に耳《みゝ》傾《かたむ》くる人いかで此|一町内《いつちやうない》百「ダース」の文学者《ぶんがくしや》を等閑《なほざり》にするを得《う》べき。若し惣《すべ》ての文学者《ぶんがくしや》を駆《かつ》て兵役《へいえき》に従事《じゆうじ》せしめば常備軍《じやうびぐん》は頓《にはか》に三倍《さんばい》して強兵《きやうへい》の実《じつ》忽《たちま》ち挙《あ》がるべく、惣《すべ》ての文学者《ぶんがくしや》に支払《しはら》ふ原稿料《げんかうれう》を算《つも》れば一万|噸《とん》の甲鉄艦《かふてつかん》何艘《なんざう》かを造《つく》るに当《あた》るべく、惣《すべ》ての文学者《ぶんがくしや》が消費《せうひ》する筆墨料《ひつぼくれう》を徴収《ちようしう》すれば慈善《じぜん》病院《びやうゐん》三ツ四ツを設《つく》る事|決《けつ》して難《かた》きにあらず、惣《すべ》ての文学者《ぶんがくしや》が喰潰《くひつぶ》す米《こめ》と肉《にく》を蓄積《ちくせき》すれば百度《ひやくたび》饑饉《ききん》来《きた》るとも更《さら》に恐《おそ》るゝに足《た》らざるべく、若《も》し又|惣《すべ》ての文学者《ぶんがくしや》を一時《いちじ》に殺戮《さつりく》すれば其|死屍《しゝ》は以て日本海《につぽんかい》を埋《うづ》むべく其|血《ち》は以て太平洋《たいへいよう》を変色《へんしよく》せしむべし。
文学者《ぶんがくしや》は一の社会問題《しやくわいもんだい》なり、貧民《ひんみん》が、僧侶《ばうず》が、娼妓《しやうぎ》が社会問題《しやくわいもんだい》となれる如く。
熟々《つら/\》考《かんが》ふるに天《てん》に鳶《とんび》ありて油揚《あぶらげ》をさらひ地《ち》に土鼠《もぐらもち》ありて蚯蚓《みゝず》を喰《くら》ふ目出度《めでた》き中《なか》に人間《にんげん》は一日《いちにち》あくせくと働《はたら》きて喰《く》ひかぬるが今日《けふ》此頃《このごろ》の世智辛《せちがら》き生涯《しやうがい》なり。学校《がつこう》の卒業《そつげふ》証書《しようしよ》が二|枚《まい》や三|枚《まい》有《あ》つたとて鼻《はな》を拭《ふ》く足《たし》にもならねば高《たか》が壁《かべ》の腰張《こしばり》か屏風《びやうぶ》の下張《したばり》が関《せき》の山《やま》にて、偶々《たま/\》荷厄介《にやつかい》にして箪笥《たんす
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