か》くの如《ごと》く大《だい》なれば随《したがつ》て小説家《せうせつか》即《すなは》ち今《いま》の所謂《いはゆる》文学者《ぶんがくしや》のチヤホヤ[#「チヤホヤ」に傍点]せらるゝは人気《じんき》役者《やくしや》も物《もの》の数《かづ》ならず。此故《このゆゑ》に腥《なまぐさ》き血《ち》の臭《にほひ》失《う》せて白粉《おしろい》の香《かをり》鼻《はな》を突《つ》く太平《たいへい》の御代《みよ》にては小説家《せうせつか》即ち文学者《ぶんがくしや》の数《かず》次第々々《しだい/\》に増加《ぞうか》し、鯛《たひ》は[#「鯛《たひ》は」はママ]花《はな》は見《み》ぬ里《さと》もあれど、鯡《にしん》寄《よ》る北海《ほつかい》の浜辺《はまべ》、薯蕷《じねんじやう》掘《ほ》る九州《きうしゆう》の山奥《やまおく》に到《いた》るまで石版画《せきばんゑ》と赤本《あかほん》は見《み》ざるの地《ち》なしと鼻《はな》うごめかして文学《ぶんがく》の功徳《くどく》無量広大《むりやうくわうだい》なるを説《と》く当世男《たうせいをとこ》殆《ほと》んど門並《かどなみ》なり。寄《よ》れば触《さは》れば高慢《かうまん》の舌《した》爛《たゞら》してヤレ沙翁《シヱークスピーヤ》は造化《ざうくわ》の一人子《ひとりご》であると胴羅魔声《どらまごゑ》を振染《ふりしぼ》り西鶴《さいくわく》は九皐《きうかう》に鳶《とんび》トロヽを舞《ま》ふと飛《と》ンだ通《つう》を抜《ぬ》かし、何《なに》かにつけては美学《びがく》の受売《うけうり》をして田舎者《いなかもの》の緋《ひ》メレンスは鮮《あざや》かだから美《び》で江戸ツ子の盲縞《めくらじま》はジミ[#「ジミ」に傍点]だから美《び》でないといふ滅法《めつぱふ》の大議論《だいぎろん》に近所《きんじよ》合壁《がつぺき》を騒《さわ》がす事少しも珍《めづ》らしからず。好奇《ものずき》な統計家《とうけいか》が概算《がいさん》に依れば小遣帳《こづかいちやう》に元禄《げんろく》を拈《ひね》る通人迄《つうじんまで》算入《さんにう》して凡《およ》そ一町内《いつちやうない》に百「ダース」を下《くだ》る事あるまじといふ。
夫れ台所《だいどころ》に於ける鼠《ねづみ》の勢力《せいりよく》の法外《はふぐわい》なる飯焚男《めしたきをとこ》が升落《ますおと》しの計略《けいりやく》も更に討滅《たうめつ》しがたきを思
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