》に蔵《しま》へば縦令《たと》へば虫《むし》に喰《く》はるゝとも喰《く》ふ種《たね》には少《すこ》しもならず。学士《がくし》ですの何《なん》のと云ツた処《ところ》で味噌摺《みそすり》の法《はふ》を知《し》らずお辞義《じぎ》の礼式《れいしき》に熟《じゆく》せざれば何処《どこ》へ行《いつ》ても敬《けい》して遠《とほ》ざけらる※[#二の字点、1−2−22]が結局《おち》にて未《ま》だしも敬《けい》さるゝだけを得《とく》にして責《せ》めてもの大出来《おほでき》といふべし。ミルトン[#「ミルトン」に傍線]の詩《し》を高《たか》らかに吟《ぎん》じた処《ところ》で饑渇《きかつ》は中《なか》々に医《い》しがたくカント[#「カント」に傍線]の哲学《てつがく》に思《おもひ》を潜《ひそ》めたとて厳冬《げんとう》単衣《たんい》終《つひ》に凌《しの》ぎがたし。学問《がくもん》智識《ちしき》は富士《ふじ》の山《やま》ほど有《あ》ツても麺包屋《ぱんや》が眼《め》には唖銭《びた》一文《いちもん》の価値《ねうち》もなければ取ツけヱべヱ[#「取ツけヱべヱ」に傍点]は中々《なか/\》以《もつ》ての外《ほか》なり。トヾ[#「トヾ」に傍点]の結局《つまり》が博物館《はくぶつくわん》に乾物《ひもの》の標本《へうほん》を残《のこ》すか左《さ》なくば路頭《ろとう》の犬《いぬ》の腹《はら》を肥《こや》すが世《よ》に学者《がくしや》としての功名《こうみやう》手柄《てがら》なりと愚痴《ぐち》を覆《こぼ》す似而非《えせ》ナツシユ[#「ナツシユ」に傍線]は勿論《もちろん》白痴《こけ》のドン[#「ドン」に傍点]詰《づま》りなれど、さるにても笑止《せうし》なるは世《よ》の是《これ》沙汰《さた》、飯粒《めしつぶ》に釣《つ》らるゝ鮒男《ふなをとこ》がヤレ才子《さいし》ぢや怜悧者《りこうもの》ぢやと褒《ほ》めそやされ、偶《たま》さか活《い》きた精神《せいしん》を有《も》つ者《もの》あれば却《かへつ》て木偶《でく》のあしらひせらるゝ事|沙汰《さた》の限《かぎ》りなり。騙詐《かたり》が世渡《よわた》り上手《じやうず》で正直《しやうぢき》が無気力漢《いくぢなし》、無法《むはう》が活溌《くわつぱつ》で謹直《きんちよく》が愚図《ぐづ》、泥亀《すつぽん》は天《てん》に舞《ま》ひ鳶《とんび》は淵《ふち》に躍《をど》る、さりとは不思議《ふしぎ》づく
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