を憂いざるべし。論者なおあるいはいわん、そのように助力を与うる多くの友人あるを望みうべきかと。小生の考うるところによれば、婦人はことごとく多くの子供を産む者にあらず。ある者はわずかに一、二人を産み、ある者は全くこれを産まず。ゆえにそれらの婦人がその余力をもって他の多産婦人を助くるは、当然にしてまた自然の人情なるべし。ただ今日においては、人みな自己の生活に忙わしく、他を顧みるのいとまなしといえども、進歩せる将来の社会において、人みな生活の余裕を生じ、人と人と競争し、家と家と相隔つるの陋態《ろうたい》を脱するをえば、自然の人情はここに油然としてわき起こり、余力多き婦人は必ず走って多産婦人を助くべきは想像に難からざるべし。また男子の側より見れば、生殖の大事業を婦人に分担せしめたることとて、生活事業の余力をもってなるべく多く婦人を助け、その労苦を最少の度に減ぜしむべきはもちろんなり。

    四

 これを要するに、婦人の特殊なる天職はただ妊娠、分娩、哺乳の一事にあり。しかもそは決して婦人生涯の全力を要求するものにあらず。婦人はこの特殊なる天職の外に、男子と相並んで一般人間の天職を果たさざる
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