べからず。ただし小生といえども、全く男女性情の差異を認めざるにあらず。婦人がその生殖作用の分業より来たる必然の結果として、生理上ある点において男子と異なる傾向を生ずるは、否むべからざる事実なるがごとし。小生は今日の男女間に見るがごとき性情の大差異は、社会の制度習慣より来たれる一時の現象なりと信ずれども、別に男女性の根本において多少の差別あるべきは、またこれを認めざるをえざるものあり。ゆえに男子が生活事業を分担し、婦人が生殖事業を分担し、それ以上にもって男女共に他の高尚なる諸事業に当たるの時、女子がその自然の性情に基づきて、あるいは多く美術におもむき、あるいは多く音楽に向かうというがごとき、男子に対して趣味ある差別を現ずべきは、小生の常に想像するところなり。さればこの点において、婦人の天職は美術にあり、婦人の天職は音楽にありなどとも称するをえんか。ただしそは将来の自由社会における自然の発展に見て、しかして後初めて言うべきの事にして、今日軽々にこれを予想し、断言すべからず。ことに男子が、その男子的偏見(よし自らはその偏見たることを意識せざるにもせよ)をもって、憶断に婦人の天職を云々するがご
前へ
次へ
全11ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堺 利彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング