えてなくなるべきものなり。さればかようなることを天職などと称して、しいて婦人を縛りつけんと欲するは、実に不都合窮まる男子の得手勝手と言わざるべからず。

    二

 ある人はまた、婦人の天職は家を守るにありと言えり。これはあたかも犬の天職は門を守るにありというに同じ。犬はもと山野にありて自由独立の生活を送りしものなり。その時には守るべき門というものもなかりしなり。後ようやく人間に圧伏せられて、家畜という境涯に落ちたればこそ、ここに初めて門を守るという役目を仰せ付けられたる次第なれ。いずくんぞこれをもって犬の天職と言うべけんや。婦人が家を守るもまたかくのごとし。男子に圧伏せられてその奴隷《どれい》たるがごとき境涯に落ちたればこそ、ついにかかる迷惑の役目をも背負わされたるなれ。天職などとは実によいつらの皮と言うべし。
 ある人はまた、婦人の天職は炊事、裁縫にありと言えり。これはほぼ前項と同様の説にして、また実に人をばかにしたる話と言うべし。昔封建時代の武士は、米を作るは百姓の天職なりと言いたりき。いかにも田を耕し、苗を植え、肥やしをくみ、稲をこくがごとき労苦のことは、これを百姓の天職な
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