れも案外うまくこしらえてある。昼が一番御馳走で毎日変っている。まず日曜が豆腐汁、それから油揚と菜、大根の切干、そら豆、うずら豆、馬肉、豚肉など大がい献立がきまっている。豚肉などといえば結構に聞ゆれど、実のところは菜か切干かの上に小さな肉の切が三つばかり乗っているまでのことだ。それでも豚だ豚だとみなが大喜びをする。昼の菜の中で予輩の一番閉口したのは、輪切大根と菜葉とのときで「ヤァ今日は輪大か」と嘆息するのが常であった。飲むものはヌルイ湯ばかり。
聞くところによれば、この三度の菜の代が、今年の初めまでは平均一銭七厘であったが、戦争の開始以後は五厘を減じて一銭二厘となったとのこと。戦争はヒドイところにまで影響するものだ。
七 特別待遇
六監にいること十日ばかりの後、予は十一監に移された。この十一監は十個の本監のほかにある別監で、古風な木造の、チョット京都の三十三間堂を思い出させるような建物である。監房は片側に十個あるだけで、前は廊下を隔てて無双窓になっている。房内は十二畳ばかりで、前後は荒い格子になって、芝居の牢屋の面影がある。後の方の格子には障子が立てられて、その障子の内にタ
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