にチョイとした手洗鉢がとりつけてある。天井は非常に高く、窓は外に向って一つ、廊下に向って一つ、いずれも手のとどかぬところにある。朝早くなど、その窓から僅かの光線の斜めに射し入るのが、何ともいわれぬほどうれしく感ぜられる。
夜具はかなりに広いのが一枚、それを柏餅にして木枕で寝るのだ。着物は夜も晝も同じものでただ寝るときには襦袢ばかり着て着物を上に掛けろと教えられた。役に就く人には別に短着と股引とがある。
食物はずいぶんひどい。飯は東京監獄と違って色が白い。東京監獄は挽割麥だが、こちらは南京米だ。このごろ麦の値が高くなって、南京米の方が安く上るのだそうな。何にせよ味の悪いことは無類で、最初はほとんど呑み下すことが出来なんだ。菜は朝が味噌汁といえば別に不足はないはずだが、その味噌汁たるや、あだかもそこらの溝のドブ泥をすくうて来たようなもので、そのまた木槽たるや、あだかも柄のぬけた古柄杓のようなもので、その縁には汁の実の昆布や菜の葉が引かかっているところなど、初めはずいぶん汚なく感じた。次の夕飯の菜は沢庵に胡麻塩、これはなかなかサッパリしてよい。時々は味噌菜もある。唐辛子など摺りこんで、こ
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