だか涙が眼に一杯になります。モウ先のことだけれど、きのうきょうのように思われますよ。ホラ晴た夜に空をジット眺《なが》めてると初めは少ししか見えなかった星が段だんいくらもいくらも見えて来ますネイ。丁度《ちょうど》そういうように、ぼんやりおぼえてるあの時分のことを考うれば考えるほど、色々新しいことを思出して、今そこに見えたり聞えたりするような心持がします。いつかフト子供心に浮んだことを、たわいなく「アノ坊なんぞも、若さまのように可愛らしくなりたい」といいましたら、奥様が妙に苦々しい笑いようを為《なす》って、急に改まって、きっ[#底本は「つ」]ぱりと「マアぼうは、そんなことを決していうのじゃありませんよ、坊はやっぱりそのままがわたしには幾《いく》ら好《いい》のか知れぬ、坊のその嬉しそうな目付、そのまじめな口元、ひとつも変えたい処はありませんよ。あの赤坊《あかんぼう》は奇麗《きれい》かは知りませんが、アノ従四位様のお家筋に坊の気高《けだか》い器量に及ぶ者は一人もありません。とにかく坊はソックリそのまま、わたしの心には、あの赤んぼうよりか、だれよりか可愛くッてならないのだよ」と仰有《おっしゃ》っ
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