とがいえたんです、「いいからどんなことでもかまわずお話し」と仰しゃるもんだから、お目に掛ったその日は木登りをして一番大きな松ぼっくりを落したというような事から、いつか船に乗って海へ行って見たいなんていう事まで、いっちまうと、面白がって聞《きい》ていて下すったんです。
時々は夢に見たって色々不思議な話しをして下すった事がありました。そのお話しというのは、ほんとうに有そうな事ではないんでしたが、奥さまの柔和《おとなし》くッて、時として大層|哀《あわれ》っぽいお声を聞くばかりでも、嬉しいのでした。一度なんぞは、ある気狂い女が夢中に成《なっ》て自分の子の生血を取てお金にし、それから鬼に誘惑《だま》されて自分の心を黄金《こがね》に売払ったという、恐ろしいお話しを聞いて、僕はおっかなくなり、青くなって震《ふる》えたのを見て「やっぱりそれも夢だったよ」と仰って、淋《さび》しそうにニッコリなすった事がありましたッけ。
マアどれほど親切で、美しくッて、好い方だったか、僕は話せない位ですよ。話せればあなただってどんなに好《すき》におなんなさるか! 非常に僕を可愛がって下すったことを思い出してさえ、なん
前へ
次へ
全18ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
若松 賤子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング