これをおもえば、徳蔵おじの実貞《じってい》な処を愛して、深い思召《おぼしめし》のある事をおおせにでもなったものと見えます。おもえばあのように陰気で冷淡《つれなさ》そうな方が僕のようなものを可愛がって下さるのは、不思議なようですが、ほんとうにそうなんでした。よく僕は奥さまの仰しゃる通りに、頭を胸へよせ掛けて、いつまでか抱《だか》れていると、ジット顔を見つめていながら色々|仰《おっしゃ》ったその言葉の柔和さ! それからドント赤子でもあやすように、お口の内で朧《おぼろ》におっしゃることの懐《なつ》かしさ! 僕は少《ちい》さい内から、まじめで静かだったもんだから、近処のものがあたりまえの子供のあどけなく可愛ところがないといい/\しましたが、どうしたものか奥さまは僕を可愛やとおっしゃらぬ斗《ばか》りに、しっかり抱〆《だきしめ》て下すったことの嬉しさは、忘れられないで、よく夢に見い見いしました。僕はモウ先《せん》から孤《みなしご》になってたんだそうでお袋なんかはちっとも覚えがないんですから、僕の子供心に思うことなんざあ、聞《きい》てくれる人はなかったんですが、奥さま斗りには、なんでも好《すき》なこ
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