さが》なく雑談をしました。徳蔵おじがこんな噂《うわさ》をするのを聞《きき》でもしようもんなら、いつも叱《しか》り止《とめ》るので、僕なんかは聞《きい》ても聞流しにしちまって人に話した事もありません。徳蔵おじは大層な主人《あるじ》おもいで格別奥さまを敬愛している様子でしたが、度々《たびたび》林の中でお目通りをしてる処を木の影から見た事があるんです。そういう時は、徳蔵おじは、いつも畏《かしこま》って奥様の仰事《おおせごと》を承《うけたまわ》っているようでした。勿論何のことか判然|聞取《ききとれ》なかったんですが、ある時|茜《あかね》さす夕日の光線が樅《もみ》の木を大きな篝火《かがりび》にして、それから枝を通して薄暗い松の大木に烽スれていらっしゃる奥さまのまわりを眩《まばゆ》く輝かさせた残りで、お着衣《めし》の辺を、狂い廻り、ついでに落葉を一と燃《もえ》させて行頃《ゆくころ》何か徳蔵おじが仔細《しさい》ありげに申上るのをお聞なさって、チョット俯向《うつむ》きにおなりなさるはずみに、はらはらと落《おつ》る涙が、お手にお持《もち》なさった一と房の花の上へかかるのを、たしかに見た事があるんですが、
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