》なお容姿《ようす》に深く思いを寄《よせ》られて、子爵の御名望《ごめいぼう》にも代《かえ》られぬ御執心と見えて、行《ゆき》つ戻《もど》りつして躊躇《ためら》っていらっしゃるうちに遂々《とうとう》奥方にと御所望《ごしょもう》なさったんだそうです。ところがいよいよ子爵夫人の格式をお授《さず》けになるという間際《まぎわ》、まだ乳房《ちぶさ》にすがってる赤子《あかご》を「きょうよりは手放して以後親子の縁はなきものにせい」という厳敷《きびしき》お掛合《かけあい》があって涙ながらにお請をなさってからは今の通り、やん事なき方々と居並《いなら》ぶ御身分とおなりなさったのだそうです。ところがあの通りこの上もない出世をして、重畳《ちょうじょう》の幸福と人の羨《うらや》むにも似ず、何故か始終浮立ぬようにおくらし成《なさ》るのに不審を打《うつ》ものさえ多く、それのみか、御寵愛《ごちょうあい》を重ねられる殿にさえろくろく笑顔をお作りなさるのを見上た人もないとか、欝陶《うっとう》しそうにおもてなしなさるは、お側《そば》のチンも子爵様も変った事はないとお附《つき》の女中が申《もうし》たとか、マアとりどりに口賢《くち
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