ががさつかせるという時分、大したお供揃《ともぞろい》で猟犬や馬を率《ひか》せてお下《くだ》りになったんです。いらっしゃれば大概二週間位は遊興をお尽しなさって、その間は、常に寂《ひっ》そりしてる市中が大そう賑《にぎやか》になるんです。お帰りのあとはいつも火の消《きえ》たようですが、この時の事は、村のものの一年中の話の種になって、あの時はドウであった、コウであったのと雑談《ぞうだん》が、始終尽ない位でした。
 僕はまだ少《ちい》さかったけれど、あの時分の事はよく覚えていますよ。サアお出《いで》だというお先布令《さきぶれ》があると、昔堅気《むかしかたぎ》の百姓たちが一同に炬火《たいまつ》をふり輝《て》らして、我先《われさき》と二里も三里も出揃《でぞろ》って、お待受《まちうけ》をするのです。やがて二頭曳《にとうびき》の馬車の轟《とどろき》が聞えると思うと、その内に手綱《たづな》を扣《ひか》えさせて、緩々《ゆるゆる》お乗込になっている殿様と奥様、物慣《ものなれ》ない僕たちの眼にはよほど豪気《ごうぎ》に見えたんです。その殿様というのはエラソウで、なかなか傲然《ごうぜん》と構えたお方で、お目通りが出
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