海に行《ゆ》くんです。実に楽《たのし》みなんです。どんな珍しいものを見るかと思って……段々海へ乗出して往《ゆ》く中《うち》には、為朝《ためとも》なんかのように、海賊を平《たい》らげたり、虜《とりこ》になってるお姫さまを助けるような事があるかも知れませんからね。それから、ロビンソン、クルーソーみたように難船に逢《あ》って一人ッきり、人跡《じんせき》の絶えた島に泳ぎ着くなんかも随分面白かろうと考えるんです。
これまでは、ズット北の山の中に、徳蔵おじと一処にいたんですが、そのまえは、先《せん》の殿様ね、今では東京にお住いの従四位様《じゅよいさま》のお城趾《しろあと》を番していたんです。足利《あしかが》時代からあったお城は御維新のあとでお取崩《とりくず》しになって、今じゃ塀《へい》や築地《ついじ》の破れを蔦桂《つたかづら》が漸《ようや》く着物を着せてる位ですけれど、お城に続いてる古い森が大層広いのを幸いその後|鹿《しか》や兎《うさぎ》を沢山にお放しになって遊猟場《ゆうりょうば》に変えておしまいなさり、また最寄《もより》の小高見《こだかみ》へ別荘をお建てになって、毎年秋の木《こ》の葉《は》を鹿
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