だまってねるだアよ」といいましたッけが、奥様が「坊はわたしが床《とこ》の側に附《つい》ていて上ればおんなじじゃないか」とおっしゃったのを、僕がまた臆面《おくめん》なく「エエあなたも大変|好《すき》だけれど、おんなじじゃないわ。だっておっかさんは、そんな立派な光る物なんぞ着てる人じゃなかったんだものを」というと、それはそれは急にお顔色が変ったこと、ワットお泣なさったそのお声の悲《かなし》そうでしたこと。僕はあんなに身をふるわしてお泣《なき》なさるような失礼をどうしていったかと思って、今だに不思議でなりませんよ。そしてその夜は、明方《あけがた》まで、勿体《もったい》ないほど大事にかけて看病して下すったんです。しかし僕はあなたが聞いて下さるからッて、好気《いいき》になって、際限もなく話しをしていたら、退屈なさるでしょうから、いい加減にしますが、モ一ツ切り話しましょう。僕はこの時の事が悲しいといえば実に何ともいえないほど悲しいんですが、またどことなく嬉しいような処もあって、判然覚えているんです。丁度しわすのもの淋しい夜の事でしたが、吹《ふき》すさぶその晩の山おろしの唸《うな》るような凄《すご》
前へ 次へ
全18ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
若松 賤子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング