見出した。矢張り子供を連れて松原の中を歩いてゐた。すると夥しい音をさせながら松原の小石を蹴立てゝ走り※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてゐるものがある、私の家に飼つてゐる犬である。痩身な身體を地に磨りつける樣にして右往左往に走り狂つてゐる。其處は松のやゝまばらなところで、廣い石ころの原である。見れば二羽の鴉が犬とすれ/\の低さにまで下つて、あつちに飛びこつちに飛びして、がア/\と啼き騷いでゐる。一羽の鴉が松の枝からフラツ[#「フラツ」に傍点]とまひおりて來て犬の背を蹴る如くにして向うにゆく、犬が追ふ、反對の側からまたの一羽がフラツ[#「フラツ」に傍点]とおりて來る、追ふといふ騷ぎである。
『はゝア、彼奴等だナ』
 と私はその鴉を見た。我等父子の姿を見て犬は一層元氣が出たらしかつた。そしてその爭鬪だか遊戲だかは我等の歩むにつれて、松原をはづれて濱に出た。今度は松の木の代りに鴉のとまり場は其處に置き竝べてある漁舟の舳《へさき》となり艫《とも》となつた。追ひつめた犬は勢ひこんで前脚を舷までは打ちかけるが、ほんの一二尺の距りで鴉に及ばない。鴉は嘴をつん/\と突き出しながら、『がア、が
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