生きてゐて、かすかにぴしよ/\と笊の中で跳ねてゐた。
その翌日の夕飯の時である。濱から歸つて來たといふ三人の子供たちが、がや/\とお膳に押し並んでゐた。そして私が自分の膳につくのを見るや否や、
『阿父さん、僕また龜を見て來た』
と末の子が言つた。
『ふうちやん、違ひますよ……』
と次の姉は一寸考へてゐたが、今度は私に向つて、
『阿父さん、あれは正覺坊《しやうがくばう》ですつて、龜ぢや無いんですつて』
『ほゝウ、正覺坊か』
と何か知ら驚いた樣な氣持で私は返事したが、やがてわれともなく、
『ふゝうん』
と附け足した。
『正覺坊だつて?』
それを聞いたか濡手をふきふき子供たちの母が勝手から出て來た。
『丁度いゝや、阿父さんのお友達だから』
『なぜ、なぜ、なぜ正覺坊が阿父さんのお友達なの?』
幼い姉弟はむきになつて母に問ひ寄つた。
『はゝア、解つた、お酒飮だろ、正覺坊は』
一番上の中學一年生の兄が言つた。
『ア、さうだ、お酒を飮まして海んなかへ逃がしてやつたよ、いま』
先刻の姉と今一人の姉とは競爭して言つた。
『さうか、逃がしてやつたか、それはよかつた』
父も苦笑しながら話
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