んで來て、頭の上の松にとまる。一羽のときもあるが、多くは二羽だ。そして高い枝から次第に低く、ともすれば私の手のとゞく所までもおりて來て頻りに、
『カアオ、カアオ』
と啼く。或る時は松の皮を嘴で突き剥いで我等の上に落す。
それだけならばまだしも、我等が其處を立つて家の方に歸らうとすると、あとになりさきになり、松から松の枝を傳つてあとを追つて來る。そして、いよ/\家の側の松まで來て、そこでやめる。一度や二度ならば氣もつかなかつたらうが、自づと解る程にまでそれを繰返してゐるのである。そしてそれは多く子供を連れて行つてゐる時で、私一人の時にはあまりやつて來ない。
『ふうちやん、あの鴉は屹度君と遊びたいんだよ、それであんなに君のあとを追つて來るのだよ』
『さうか知ら、あの鴉、僕と遊びたいのかなア、さうかなア』
この生意氣先生、甚だ得意であつた。そして早速そのことを母親に報告した。初めは相手にしなかつたが、やがて母親もそれを承知せざるを得なくなつた。
『ほんとだ、ふうちやんと仲好しになりたくつてしやうがないんだよ、遊んでおやりなさいよ』
『うむ、僕、遊んでやらア』
或る日、また滑稽な場面を見出した。矢張り子供を連れて松原の中を歩いてゐた。すると夥しい音をさせながら松原の小石を蹴立てゝ走り※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてゐるものがある、私の家に飼つてゐる犬である。痩身な身體を地に磨りつける樣にして右往左往に走り狂つてゐる。其處は松のやゝまばらなところで、廣い石ころの原である。見れば二羽の鴉が犬とすれ/\の低さにまで下つて、あつちに飛びこつちに飛びして、がア/\と啼き騷いでゐる。一羽の鴉が松の枝からフラツ[#「フラツ」に傍点]とまひおりて來て犬の背を蹴る如くにして向うにゆく、犬が追ふ、反對の側からまたの一羽がフラツ[#「フラツ」に傍点]とおりて來る、追ふといふ騷ぎである。
『はゝア、彼奴等だナ』
と私はその鴉を見た。我等父子の姿を見て犬は一層元氣が出たらしかつた。そしてその爭鬪だか遊戲だかは我等の歩むにつれて、松原をはづれて濱に出た。今度は松の木の代りに鴉のとまり場は其處に置き竝べてある漁舟の舳《へさき》となり艫《とも》となつた。追ひつめた犬は勢ひこんで前脚を舷までは打ちかけるが、ほんの一二尺の距りで鴉に及ばない。鴉は嘴をつん/\と突き出しながら、『がア、が
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