へに來てゐた。案外な健康體で、ルパシカなどを着込んでゐた。まだ然し、聲は前通りにかれてゐた。豐川線に乘換へ、豐川驛下車、稻荷樣に詣でた。此處は亡くなつた神戸の叔父が非常に信仰したところで、九州へ歸省の途中彼を訪ふごとに、何故御近所を通りながら參詣せぬと幾度も叱られたものであつた。謂はゞ偶然今日其處へ參詣して、この叔父の事が思ひ出され、その位牌に額《ぬか》づく思ひで、頭を垂れた。
再び豐川線に乘つて奧に向ふ。この沿線の風景は武藏の立川驛から青梅に向ふ青梅線のそれに實によく似てゐた。たゞ、車窓から見る豐川の流が多摩川より大きいごとく、こちらの方が幾分廣やかな眺めを持つかとも思はれた。
新城《しんしろ》の町は一里にも餘らうかと思はれる古びやかな長々しい一すぢ町で、多少の傾斜を帶び、俥で見て行く兩側の店々には漸くいま灯のついた所で、なか/\に賑つて見えた。豐川流域の平原が次第につまつて來た奧に在る附近一帶の主都らしく、さうした位置もまた武藏の青梅によく似てゐた。
K――君の家はその長々しい町のはづれに在り、豫《か》ねて聞いてゐた樣に酒類を商ふ古めかしい店構へであつた。鬚《ひげ》の眞白なそ
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