星あかりの空を限つて聳えた嶮しい山の峰からその聲が落ちて來る。ぢいつと耳を澄ましてゐると、其處に行き、彼處に移つて聞えて來る。時とすると更け沈んだ山全體が、その聲一つのために動いてゐる樣にも感ぜらるゝのである。
十九日の夜もよく啼いた。そして午前の四時頃、他のものでは蜩《ひぐらし》が一番早く聲を立つるのであるが、それをきつかけに佛法僧はぴつたりと默つてしまふ樣である。それから後はあれが啼きこれが叫び、いろ/\な鳥の聲々が入り亂れて山が明けて行く。
二十日に私は山を下つた。滯在六日のうち、二晩だけ完全にこの鳥を聞くことが出來た。二晩とも闇であつたが、月夜だつたら一層よかつたらうにと思はれた。また、月夜にはとりわけてよく啼くのださうである。いつかまた月のころに登つてこの寂しい鳥の聲に親しみたいものだ。
底本:「若山牧水全集第八巻」雄鶏社
1958(昭和33)年9月30日初版1刷
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:柴武志
校正:小林繁雄
2001年2月8日公開
2004年8月30日修正
青空文庫作成ファイ
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